「微分積分学」0.極限の定義とε-δ論法(上;ε- N 論法)

0.極限の定義と\(\ \varepsilon\) – \(\delta\ \)論法(上;\(\varepsilon\ \)- \(N\)  論法)

\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法の導入にあたって

 この記事では,高校数学の知識のみを仮定し,\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法を用いた極限の定義を導入し,微分積分学における議論の準備を行う.高校では紹介されないが,数列の極限,関数の極限は,それぞれ \(\varepsilon\)-\(N\) 論法,\(\varepsilon\)-\(\delta\) 論法と呼ばれる手法により定義されている.そのうちの \(\varepsilon\)-\(N\) 論法による数列の極限をここでは解説する.

 大学に入って序盤で登場する基本的な考え方でありながら,ここでつまづく人は多いが,数学や物理で行う極限に関わる議論の基礎となる重要な考え方なので,非常に重要である.

\(\ \) 

突然だが,少し考えてみて欲しい.$$ \lim_{x\to{3}}\ x^{2}=\ ? $$
 高校で数学IIを履修した人なら,\(9\ \)だとすぐにわかるであろう.ではどうして\(\ 9\ \)になるのであろうか?

ここで,数学IIIを履修した人であれば,次のような解答が浮かぶかもしれない.

\(x^{2}\ \)は連続関数だからだ!

 だが,冷静になって,よく考えてみて欲しい.上で登場した極限の式は,まさに,\(x^{2}\ \)の\(\ x=3\ \)における連続性を問うものだ.その問題に対して「連続だから…」といっても,何も答えたことになっていないではないか!

これを解決するのが,\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法なのである

数列の極限と\(\ \varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法

 \(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法を使った関数の極限の話に入る前に,高校数学の教科書と同じように,数列の極限に関する話をする.高校の数学で学ぶ数列の極限の定義は,教科書によって細かな差があるかもしれないが,おおむね,以下のようなものだろう.

 数列\(\ \{a_{n}\} \ \)が与えられているとする.\(n\ \)が無限に大きくなるとき,ある実数\(\ \alpha\ \)があって,\( a_{n}\ \)が無限に\(\ \alpha\ \)に近づくならば,$$ \lim_{n\to\infty} a_{n}= \alpha$$

 この定義だと,「無限小」や「無限大」の存在が暗に仮定されている.\(n\ \)が「無限大」に,\(a_{n}\ \)と\(\ \alpha\ \)の差が「無限小」にそれぞれ等しいことを,上の等式の定義にしている.しかしながら,無限小も無限大も,実数ではない.そもそも,高校数学の範囲内では,「無限小」も「無限大」も定義していないはずである.そこで,「無限」という言葉を使わず,同じ式を以下のように定義する.

任意の正の数\(\ \varepsilon\ \)に対して,次の条件を満たすようなある自然数\(\ N\ \)が存在する.
$$ 自然数\ n\ に対して, N<n \Rightarrow |a_{n}-\alpha|<\varepsilon$$このとき,$$ \lim_{n\to\infty}a_{n}=\alpha $$と表記する.

このようにすると,実数のみを用いて極限が定義できている.

 この定義が実質的に主張しているのは,どんなに小さく\(\ \varepsilon\ \)をとっても,\(n\ \)が十分に大きければ\(\ |a_{n}-\alpha|<\varepsilon\ \)となる,ということである.「どんなに小さく」を「任意の正の数」,「\(\ n\ \)が十分に大きければ」を「ある\(\ N\ \)より大きいならば」,と表現しているのだ.

例0.1 \(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \)  論法1

\(\varepsilon\ \)-\(N\ \)論法を用いて,$$\ \lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}=0 $$を証明すると,以下のようになる.

 任意に正の数\(\ \varepsilon\ \)が与えられたとする.このとき,\(1/\varepsilon<N\ \)をみたす\(\ N\ \)をとると,\(\ N<n\ \)ならば,\(|1/n-0|=1/n<1/N<\varepsilon\ \)

 例えば,\(1/n\ \)を \(0.001\) より小さくしたいとしよう.\(1/0.001<2000\ \)だから\(\ n\ \)が \(2000\) より大きければ,必ず\(\ 1/n<0.001\ \)となる.\(1/n\ \)を \(0.00015\) より小さくしたければ,\(n\ \)が \(7000\) より大きければよい.どんな正の数に対しても,同じ操作ができる.

例0.2 \(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \) 論法2

 今度は,\(1/{2^{n}}<1/n\ \)(これは数学的帰納法で簡単に示せる)を用いて$$\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2^{n}}=0$$を示してみよう.

 任意に正の数\(\ \varepsilon\ \)が与えられたとする.例0.1 と同様に,\(1/\varepsilon<N\ \)をみたす\(\ N\ \)をとると,\(\ N<n\ \)ならば,\(|1/{2^{n}}-0|=1/{2^{n}}<1/n<1/N<\varepsilon\ \)

無限大に発散する場合の定義

 無限大に発散する場合の\(\ \varepsilon\ \)-\(\ N\ \)論法を用いた極限の定義は以下のとおりである.

数列\(\ \{a_{n}\}\ \)が与えられているとする.\(a_{n}\ \)が無限大に発散するとは,任意の実数\(\ R\ \)に対して,以下の条件を満たすある自然数\(\ N\ \)が存在することである.$$ 自然数\ n\ に対して,N<n\Rightarrow{}R<a_{n} $$

\(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \)論法の重要な例(収束する数列の平均)

 これまでの例と違って,\(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \)論法を使わないと証明できない1)できるかもしれないが,僕は証明方法を知らないし,あるという話も全く聞いたことがない例を,例題として示しておく.

$$ \lim_{n\to\infty}a_n=\alpha とする.\lim_{n\to\infty}\frac{a_{1}+a_{2}+\cdots{}+a_{n}}{n}=\alpha\ であることを示せ.$$

解答例 
 任意に正の数\(\ \varepsilon\ \)を与える.\(N^{\prime}\ \)を,\(N^{\prime}<n\ \)なら\( |a_{n}-\alpha|<\varepsilon/2\ \)となるような自然数とする.(このような\(\ N^{\prime}\ \)は,\(a_{n}\ \)が\(\ \alpha\ \)に収束することから,必ず存在する.)また,$$\lim_{n\to\infty}\frac{a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{N^{\prime}}-N’\alpha}{n}=0\ $$であるので(すでに\(\ N^{\prime}\ \)は決まっているのだから,[\(a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{N’}-N’\alpha\ \)] は定数!)$${}M<n\ ならば\ \frac{a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{N\prime}-N’\alpha}{n}<\frac{\varepsilon}{2}\ $$となるような自然数\(\ M\)が存在する.そのような\(\ M\ \)を一つ選んで,\(N^{\prime\prime}\ \)とする.\(\ N’, N^{\prime\prime}\ \)のうちの大きい方を\(\ N\ \)とおく.
 このとき,\(\ N<n\ \)ならば,
$$\begin{align}
\bigg|\frac{a_{1}+a_{2}+\cdots+a_{n}}{n} – \alpha\bigg| &=\bigg|\frac{a_{1}+\cdots+a_{N\prime}-N’\alpha}{n}+\frac{a_{N’+1}+\cdots+a_{n}-(n-N’)\alpha}{n}\bigg|\\
\ \\
&\leq\bigg|\frac{a_{1}+\cdots+a_{N\prime}-N’\alpha}{n}\bigg|+\bigg|\frac{a_{N’+1}+\cdots+a_{n}-(n-N’)\alpha}{n}\bigg|\\
\ \\
&<\frac{\varepsilon}{2}+\bigg|\frac{(a_{N’+1}-\alpha)+(a_{N’+2}-\alpha)+\cdots+(a_{n}-\alpha)}{n}\bigg|\\
\  \ \\
&<\frac{\varepsilon}{2}+\bigg|\frac{(n-N’)\frac{\varepsilon}{2}}{n}\bigg|\\
\  \ \ \\
&<\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon
\end{align}
$$

 上記の証明では,任意の実数 \(\alpha,\ \beta\) に対し \(|\alpha+\beta|\leq|\alpha|+|\beta|\) が成立するという事実を用いている.

 どうして,「これで証明できたことになるのか」と思う人もいるだろうが,ポイントは「条件を満たす\(\ N\ \)」をみつければよい,という点である.今は難しいと感じていても,\(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \)論法や\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法を何度も使っているうちに,だんだん慣れてくるはずである.辛抱強く取り組んでいこう.

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References   [ + ]

1. できるかもしれないが,僕は証明方法を知らないし,あるという話も全く聞いたことがない