「微分積分学」0.極限の定義とε-δ論法(下;ε-δ論法)

0.極限の定義と\(\ \varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法(下;\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法)

 前の記事で,\(\varepsilon\ \)-\(\ N\ \)論法について説明をした.今回は,その続きとして,\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法について解説する.

数学IIIで,関数の極限は

「ある実数\(\ \alpha\ \)があって,\(x\ \)が \(a\) に無限に近づくならば,\(f(x)\ \)が無限に \(\alpha\) に近づくとき \(\lim_{x\to{}a}f(x)=\alpha \)」

と,定義されていた.今後,同じ式を,\(\varepsilon\ \)- \(\delta\) 論法を用いて以下のように定義する.

\(\ \)

任意の正の数\(\ \varepsilon\ \)に対して,以下の条件を満たす正の数\(\ \delta\ \)が存在する.$$ |x-a|<\delta\Rightarrow{}|f(x)-f(a)|<\varepsilon $$

\(\ \)

 高校数学のときの定義の,「\(\ x\ \)が \(a\) に無限に近づく」を「 \(|x-a|<\delta\) 」,「\(\ f(x)\ \)が \(f(a)\) に無限に近づく」を「 \(|f(x)-f(a)|<\varepsilon\) 」,で言い換えている.

 上の定義が実質的に主張しているのは,「どんなに小さく\(\ \varepsilon\ \)をとっても,\(a\ \)に \(x\) が十分近ければ,\(|f(x)-f(a)|<\varepsilon\ \)となる」ということである.このような極限の定義の変更により,1点における関数の連続性の定義は以下のようになる.

任意の正の数\(\ \varepsilon\ \)に対し, 以下の条件を満たす正の数\(\ \delta\ \)が存在するとき,\(f(x)\)は点 \(a\) で連続である,という.$$|x-a|<\delta{}\Rightarrow{}|f(x)-f(a)|<\varepsilon$$

例0.3 \(x^{2}\ \)の連続性

 前の記事で,\(\lim_{x\to 3}x^{2}=?\) について書いたが,この極限が \(9\) になることを\(\ \varepsilon\)-\(\ \delta\ \)論法で示してみよう.

 任意に正の数\(\ \varepsilon\ \)をとったとする.\(\delta{}=\sqrt{9+\varepsilon}-3\ \)とおく.このとき,\(|x-3|<\delta\ \)ならば,$$ \begin{align}
|x^{2}-9|&=|x-3||x+3|\\ 
&<\delta{}(\delta{}+6)\\
&=(\sqrt{9+\varepsilon}-3)(\sqrt{9+\varepsilon}+3)\\
&=(9+\varepsilon)-9\\
&=\varepsilon
\end{align} $$

 ここで,\(\ \delta\ \)が,普通,\(\varepsilon\ \)の関数になり\(\ \varepsilon\ \)が小さくなれば\(\ \delta\ \)も小さくなることに注意しよう.この例では,関数の連続性の定義で登場した \(f(x)\) は \(x^{2}\),\(f(a)\ \)は \(f(3)=3^{2}=9\ \)である.

無限大に発散する場合

 \(x\) が無限大に発散するときは,

任意の正の数 \(\varepsilon\) に対してある実数\(R\)があって\(x<R\)ならば\(|f(x)-\alpha|<\varepsilon\)

 \(f(x)\) が無限大に発散するときは,

任意の実数 \(R\) に対して,ある正の数 \(\delta\) が存在して,\(|x-a|<\delta\) ならば \(f(x)>R\)

というふうに,変更される.どちらも無限大に発散する場合の定義も,ここまで書けばあきらかであろう.

便利な記号

 これまで文章で表現してきたことがらを,まとめて表現できる便利な記号があるので,そのうち,微分積分学でよく使われるものを以下に紹介する.

 はじめに紹介するのは,「数」の集合をあらわす記号である.

\( \mathbb{N} \) : すべての自然数からなる集合
\( \mathbb{Z} \) : すべての整数からなる集合 
\( \mathbb{Q} \) : すべての有理数からなる集合
\( \mathbb{R} \) : すべての実数からなる集合 
\( \mathbb{C} \) : すべての複素数からなる集合

Natural number(英), Zahlen(独), Quoziente(伊), Real number(英), Complex number(英)と結びつけると覚えやすい.なお,Quozienteの意味は「商」である.(Wikipediaを参照) 

 次に紹介するのは,全称記号と存在記号である.

\(\forall\)○○:任意の○○について,全ての○○について(英語の for all)
\(\exists\)○○:ある○○があって,○○が存在して(英語のexists)

 これらの記号の意味は,何度も目にするうちに一層よくわかると思う.○○には,\(\in\mathbb{R}\) や \(>0\) などの条件が含まれることが多い.

 最後にもうひとつ

s.t. :such that の略

 日本語には関係代名詞がないので意味がわかりにくいかもしれないが,○○ such that … として …というような性質を持つ○○,くらいの意味になる.

 なお,全称記号,存在記号,s.t. を口頭で表現するときには,略さずに文章で読むことが多い(僕はそうしている).

例0.4 記号の使い方1

 「全ての自然数 \(n\) は \(1\) で割り切れる.」という命題(当然真である)を上記の記号を用いると$$\forall{}n\in\mathbb{N}, n は 1 で割り切れる.$$となる.

例0.5 記号の使い方2

 上で紹介した記号は,\(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法を用いるときに,よく使う.関数が \(1\) 点 \(a\) で連続であることの定義は,以下のように少しスッキリ書き表すことができる.

\(\forall\varepsilon{}>0,\exists\delta{}>0\ \ \ \mathrm{s.t.} \ |x-a|<\delta\Rightarrow\ |f(x)-f(a)|<\varepsilon\ \)

\(\ \)

 さて,ようやく,議論の準備がととのった.すぐには \(\varepsilon\ \)-\(\ \delta\ \)論法をうまく使えないかもしれないが,この記事はこれから使うための「準備」なので,積極的に先に進んでみて欲しい.次の記事から,微分積分学の本格的な議論を開始する.

 

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