「集合と写像」0.命題,論理の基本 

0.命題,論理の基本

 この記事では,対偶や必要十分条件,背理法など,議論に必要な命題に関する基礎的な理論を紹介する.

命題

 真偽が明確に決まる主張のことを,「命題」という.なお,命題が真であるとき,正しい,○○な条件を満足する,成立する,など状況に応じて様々な表現を使う.(伝わればなんでもよい.)

 また,命題を表現する際に,「条件」という語をよく使う.これも,基本的には,満たされているか否かが(理論上)明確に定まるものだと思って欲しい.1)しばしば,「条件」と「命題」は,実質的に同じ意味で用いられる.以下 \(P,Q,\) などは,このような条件,あるいは命題を表すと思って欲しい.

例0.1 命題の例

 \(2\) は自然数である,\(4\) は \(2\) で割り切れる,などの主張は命題である.

例0.2 命題でない例

 \(100\) は大きい数である,ドラクエ5ではビアンカと結婚すべきである,などの主張は命題ではない.

「かつ」と「または」

 命題「\(P\) かつ \(Q\)」は,\(P,Q\) の2つの条件が共に,同時に満たされているという主張を,命題「\(P\) または \(Q\)」は,\(P,Q\) の2つの条件の内少なくとも一方が満たされているという主張を表している.それぞれ,「\(P\wedge{}Q\)」「\(P\vee{}Q\)」という記号で表すこともある.

 命題「\(P\) または \(Q\)」は,命題「\(P\) かつ \(Q\)」が真であるときにも真である.「または」という言葉には,どちらか一方のみ,という意味合いもあるが,数学では両方成り立っていてよいのである.

例0.3 「かつ」と「または」の簡単な例

 「\(2\) は自然数であり,かつ,偶数である」は真,「\(2\) は自然数である,または,偶数である」も真

否定命題

 命題 \(P\) が偽である,という主張を「命題 \(P\) の否定」「 \(P\) の否定命題」のようにいい,記号 \(\neg{}P\) で表す.

例0.4 否定命題

 「任意の自然数について,条件 \(P\) が成立する」の否定命題は,「ある自然数 \(n\) について,条件 \(P\) が成立しない」である.

必要条件,十分条件

 「ならば」を矢印「\(\Rightarrow\)」であらわす.例えば,「\(P\Rightarrow{}Q\)」であれば,\(P\) ならば \(Q\) という意味になる.「\(P\Leftarrow{}Q\)」であれば,\(Q\) ならば \(P\) という意味になる.

必要条件と十分条件の定義

 命題「\(P\Rightarrow{}Q\)」が真であるとする.このとき,

\(Q\) を \(P\) の必要条件, \(P\) を \(Q\) の十分条件

という. こういう表現だと少し意味がわかりにくいと思うが,\(P\) が成立するために \(Q\) が成り立っていることが必要で,\(Q\)が成立するためには \(P\) が成り立っていれば十分,ということを,できるだけ論理的な曖昧さが残らないように表現したのが,上述の定義である.必要な条件を「必要条件」,十分な条件を「十分条件」というのである.

例0.5 必要条件と十分条件

 「\(x=3\Rightarrow{}x^{2}=9\)」は真である.ここで,\(x^2=9\) であるために,\(x=3\) である必要性はない.しかし,\(x=3\) であれば,\(x^{2}=9\) は必ず満たされる.したがって,\(x^{2}=9\) は \(x=3\) であるための必要条件である.逆に,\(x=3\) は,\(x^{2}=9\) であるための,十分条件である.

必要十分条件,同値

 「\(P\Rightarrow{}Q\)」「\(Q\Rightarrow{}P\)」が同時に成立しているとき,すなわち,「\(P\) は \(Q\) の必要条件であると同時に十分条件でもある」とき,\(P\) は \(Q\) の,\(Q\) は \(P\) の,必要十分条件であるという.また,このとき,条件,あるいは命題 \(P,Q\) は,「同値」であるという.(命題の同値関係)2)この「同値」ということばは,集合上の「関係」の一部としても登場する.命題の「同値」関係は,それと同じような性質を持っている. \(P,Q\) が同値な命題(条件)であることを,$$P\Leftrightarrow{}Q$$と書く.

例0.6 命題の同値

 「\(x=3\)」と「\(x^{2}=9\ かつ\ x>0\)」は同値な命題(条件)である.

逆,裏,対偶

対偶

 命題「\(P\Rightarrow{}Q\)」に対し,「\(\neg{}Q\Rightarrow\neg{}P\)」を,もとの命題の対偶という.これら2つの命題は,同値である.明らかに \(\neg{}P\) と \(P\) は同時に起こりえず,\(\neg{}Q\) と \(Q\) も同時に起こりえないからである. 「\(P\Rightarrow{}Q\)」が真であるときに \(Q\) でないと仮定すると,\(P\) が成立することはあり得ない,のである.

逆,裏

 命題「\(P\Rightarrow{}Q\)」に対し,「\(Q\Rightarrow{}P\)」をもとの命題の逆,「\(\neg{}P\Rightarrow{}\neg{}Q\)」をもとの命題の裏という.3)対偶と比較すれば重要性や登場する頻度は低い.覚える量が多いと感じる人は,あとまわしにしても問題ないと思う.

 

例0.7 対偶

 $$「n が 2 の倍数である\Rightarrow{}n が偶数である」$$の対偶は, $$「n が奇数である\Rightarrow{}n は 2 の倍数でない」$$である.

仮定が偽であるとき

 命題「\(P\Rightarrow{}Q\)」において,条件 \(P\) が必ず不成立であるならば,その命題は真である.これは,対偶が常に真であることを考えればわかる.

例0.8 仮定が偽である例

 佐藤,鈴木,高橋の3人がいて,佐藤さんは鈴木さんと結婚したがっているが,高橋さんが邪魔してできなかったとしよう.そんなとき,こんなふうに思うこともあるだろう「高橋さんが存在しなければ,佐藤さんと鈴木さんは結婚できた」.実は,これは,いつでも真なのだ!なぜなら,高橋さんは存在するので,仮定が成立することは絶対にないからだ.

証明の基本

 定理、公式を証明したいとき,多くの場合,それらは「\(P\Rightarrow{}Q\)」の形をしている.あるいは,そう書き換えられる.このとき,\(P\) をこの命題,公式の仮定,\(Q\) を結論という.

 証明する際,結論を仮定してはならない.結論を仮定いてしまうことを循環論法という.そんなバカなことはしない,と思うかもしれないが,すこし内容が複雑になると多くの人が陥ってしまうミスであるので,注意してほしい.(\(x^{2}は連続関数だから,\lim_{x\to{}3}x^{2}=9\) などもその一例である.)

直接証明しにくい命題の証明方法

 仮定からの演繹4)えんえき.ある仮定から論理的推論によって直接結論を導くこと.三段論法がその一例.によって命題を証明することが難しい場合もある.そのような場合によく使う手法を列挙しておく. 証明にこまったら,まず思い浮かべて欲しい選択肢である.

対偶を証明する

 ある命題の対偶が成立すれば,もとの命題も成立する.もとの命題と対偶が同値であることを思い出そう.

背理法

 証明したい命題を否定して,矛盾を導く方法である.\(\sqrt{2}\) が無理数であることの証明に用いられる.この方法で重要なことは,矛盾を導く過程は直接的な演繹によらなければならない,ということである.矛盾を導く過程で誤りがあっては困るので,その過程に誤りがないことがはっきりとわかるように,述べられるべきである.対偶の証明と似ている.

数学的帰納法

 自然数に関する命題の証明に用いられる.$$「 n=1 で命題が成立し,かつ,n=k\ で命題が成立するなら\ n=k+1\ でも成立する」$$ ならば,すべての自然数について,その命題が成り立つのである. 後半を,$$n\leq{}k\ なるすべての自然数\ n\ で成り立つなら,n=k+1\ のときにも成り立つ$$としても,同様である.(この方法は,人生帰納法といわれる.)また,これらとほとんど同じ手法も,まとめて数学的帰納法と呼ばれる.

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 この記事の内容は,数学におけるあらゆる議論の基本ともいえる内容である.さらに掘り下げて学びたい人は,数理論理学と呼ばれる分野の勉強をおすすめする.もし全く意味のわからないところがあれば,自分で簡単な例をつくって,いろいろと考えてみて欲しい.

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次の記事:1. 集合とは

 

References   [ + ]

1. しばしば,「条件」と「命題」は,実質的に同じ意味で用いられる.
2. この「同値」ということばは,集合上の「関係」の一部としても登場する.命題の「同値」関係は,それと同じような性質を持っている.
3. 対偶と比較すれば重要性や登場する頻度は低い.覚える量が多いと感じる人は,あとまわしにしても問題ないと思う.
4. えんえき.ある仮定から論理的推論によって直接結論を導くこと.三段論法がその一例.