「微分積分学」1.デデキントの切断と上限,下限

1.デデキントの切断と上限,下限

実数の連続性

 ここから何記事かかけて,実数の連続性と呼ばれる諸定理(公理として扱われることが多い)について解説する.

 実数の連続性とは,簡単に言うと,数直線上には実数が「ぎっちり」詰まっていることを意味する.これを説明する同値な定理が数多く知られているが,その内の以下の6つ,特に1次元の場合について,使われている用語などと共に,上から順に解説する.

$$\begin{align}
(\mathrm{I}) &:デデキントの定理\\
(\mathrm{II}) &:ワイエルシュトラスの定理\\
(\mathrm{III}) &:有界で単調な数列は収束する\\
(\mathrm{IV}) &:区間縮小法とアルキメデスの原理\\
(\mathrm{V}) &:ボルツァーノ – ワイエルシュトラスの定理\\
(\mathrm{VI}) &:ハイネ – ボレルの被覆定理
\end{align}
$$

\(\ \)

 この記事では,\({}(\mathrm{I})\) のデデキントの定理の主張について解説した後,\({}(\mathrm{II})\) のワイエルシュトラスの定理の主張について解説し,\({}(\mathrm{I})\Rightarrow{}(\mathrm{II})\) の証明を行う.

切断

定義 1.1 切断

 \(\mathbb{R}\) の部分集合 \(A,B\) が 以下の条件を満たすとき,組 \({}({A,B})\)を(デデキントの)切断という.

$$\begin{align}
\mathrm{(I)}&:A\cup{}B=\mathbb{R}\\
\mathrm{(II)}&:A\cap{}B=\emptyset\\
\mathrm{(III)}&:\forall{}a\in{}A,\ \ \forall{}b\in{}B,\ \ a<b
\end{align}$$

このとき,\(A\) を切断の下組,\(B\) を切断の上組という.有理数などでも,定義の一つ目の条件の\(\mathbb{R}\) を \(\mathbb{Q, Z, N}\) に変えることにより切断を考えることができる.以下,単に切断という場合は実数の切断をさすものとする.

切断のイメージ

 切断に関して,有理数の切断なら,例えば \(\sqrt{2}\) より大きい数を上組,\(\sqrt{2}\) より小さい数を下組とする切断を考えれば,上組には最小数がなく,下組には最大数がない.

 これに関して,実数では必ず片方が最大数(最小数)を持ち,もう片方は持たない.それが,デデキントの定理の主張である.最大数,最小数の定義とデデキントの定理の主張を書き下しておく.

定義 1.2 最大数,最小数

 \(\mathbb{R}\) の空でない部分集合 \(A\) が与えられていて,ある \(A\) の元 \(a\) が
$$\forall{}x\in{}A,\ x\leq{}a$$ 
を満たすとき,\(a\) は \(A\) の最大数であるとし,
$$\forall{}x\in{}A,\ a\leq{}x$$ 
を満たすとき,\(a\) は \(A\) の最小数であるとする.

定理 1.1  デデキントの定理

 \({}(A, B)\) を,実数の切断とする.このとき,以下のうち一方が,そして一方のみが成立する.

$$A に最大数があり,B に最小数がない$$

$$A に最大数がなく,B に最小数がある$$

 これを公理として,正しいことを認めることにする.そうしておいて,上記のようにこれと同値な定理の一部を紹介しようというわけである.

例 1.1 切断の簡単な例

 \(\sqrt{2}\) 以下であるような実数全体の集合と,\(\sqrt{2}\) より大きい実数全体の集合を考えると,\(A\) を下組,\(B\) を上組として,
$$A=\{x\in\mathbb{R}\ |\ x\leq{}\sqrt{2}\}\\
B=\{x\in\mathbb{R}\ |\ x>{}\sqrt{2}\}$$

 このとき, \(A\) に最大数があるが \(B\) に最小数はない.\(\mathbb{Q}\) で同様のことを考えると
$$A’=\{x\in\mathbb{Q}\ |\ x>{}\sqrt{2}\}\\
B’=\{x\in\mathbb{Q}\ |\ x\leq{}\sqrt{2}\}$$
のようになり,\(A’\) に最大数はなく \(B’\) に最小数がない.

\(\ \)

上限,下限の定義とその存在について

 実数の部分集合について考える際に,たとえば,その部分集合に含まれる数がどの範囲にあるのかが問題になったり,その範囲をどれくらい絞り込めるかが問題になったりすることがある.そこで,上に有界,下に有界,上界,下界という概念を導入する.

定義 1.3 上に有界,上界,下に有界,下界

 \(\mathbb{R}\) の,空でない部分集合 \(A\) が与えられたとする.この \(A\) について,以下が成り立つような実数 \(r\) を,\(A\) の上界という.

$$\forall{}a\in{}A,\ a\leq{}r$$

そして,\(A\) に上界が少なくとも一つ存在するとき,\(A\) は上に有界であるという.下界と下に有界の定義は,不等号の向きをそのままひっくり返して得られる.また,上に有界かつ下に有界であるとき,単に有界であるという.

例 1.2 有界な集合

 \(\mathbb{R}\) の部分集合 \(A\) を次のように定義するとき,\(A\) は有界である.

$$A=\{x\in\mathbb{R}\ |\ x^{2}<2\}$$

このとき,例えば,\(\sqrt{2}\) は \(A\) の上界の一つであり,\(-\sqrt{2}\) は \(A\) の下界の一つである.

\(\ \)

 \(\mathbb{R}\) の空でない部分集合 \(A\) について,たとえば \(4\) がその上界であれば \(4\) より大きい数は全て \(A\) の上界である.そこで,上界の中でもできるだけ小さいもの,下界の中でもできるだけ大きいものに興味がある.ここで,\({}(\mathrm{II}):ワイエルシュトラスの定理\) の登場である.

定理 1.2 ワイエルシュトラスの定理

 \(\mathbb{R}\) の空でない部分集合 \(S\) が上に有界ならば,\(S\) の上界全体の集合には最小数がある.下に有界であるとき,同様に,下界全体の集合の最大数がある.

 ここでは,\({}(\mathrm{I})( :デデキントの定理)\Rightarrow{}(\mathrm{II})\) を証明する.

証明

 \(S\) の上界全体の集合を \(B\) とし,\(\mathbb{R}-B(=\{x\in\mathbb{R}\ |\ x\notin{}B\})=A\) とおく.このとき,\({}(A,\ B)\) が切断になっていることを示す.

 \(A,\ B\) の定義から,明らかに \(A\cap{}B=\emptyset\) かつ \(A\cup{}B=\mathbb{R}\) である.
 \(A\) の元 \(a\) と \(B\) の元 \(b\) に対し,\(b\leq{}a\) ならば,\(b\) は \(S\) の上界なのだから \(a\) も \(S\) の上界であるので \(a\in{}B\) となり矛盾する.したがって,\(a\in{}A,\ b\in{}B\) ならば,\(a<b\) である.以上により,\({}(A,\ B)\)は切断となっている.

 \({}(I):デデキントの定理\) より,\(A\) に最大数があるか \(B\) に最小数があるか,どちらか一方のみが成立する.今,\(A\) に最大数があると仮定し,\(A\) の最大数を \(\alpha\) とおく.このとき,\(\alpha\) は \(S\) の上界ではないので,ある \(S\) の元 \(s\) があって,\(s>\alpha\) が成立する.すなわち,
$$\exists{}s\in{}S,\ s>\alpha$$

 ここで,\(\frac{s+\alpha}{2}\) について考えると,\(\frac{s+\alpha}{2}>\alpha\) なので,\(s\in{}B\) である.ところが,\(\frac{s+\alpha}{2}<s\) より \(\frac{s+\alpha}{2}\) は\(S\) の上界ではないので,矛盾している.

 以上より,\(S\) の上界全体の集合 \(B\) には最小数が存在する.

定義 1.4 上限,下限

 上界の最小数を上限,下界の最大数を下限という.上限の存在と同様にして,下に有界な場合の下界の存在もしめされる.

 ワイエルシュトラスの定理の主張は,まとめると,上に(下に)有界な集合における上限(下限)の存在をいっているのである.

例 1.3 上限,下限

 例 1.2 で登場した集合 \(A=\{x\in\mathbb{R}\ |\ x^{2}<2\}\) の上界 \(\sqrt{2}\) および下界 \(-\sqrt{2}\) は,実はそれぞれ上限,下限である.

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