「集合と写像」5.写像,写像の合成

5.写像,写像の合成

 この記事では,写像の定義をする.様々な分野の数学の教科書に載っている一般的なものを紹介した後,直積を用いた,集合としての定義を添えておく.そしてその後,写像の合成について説明する.このとき,高等学校で習ったであろう三角関数を例として用いる1)三角関数,および指数,対数関数について微分積分学の記事でもうすこし詳しく触れるつもりである.ただし,三角関数を定義するときに級数の収束,あるいは曲線の長さといった定義に必要な概念についてのくわしい考察を高校では飛ばしている,などの事情を考えると,高校で習うこれらの関数の性質は全く「既知」ではない.

写像の定義

定義 5.1 写像の定義1

 空でない集合 \(A,\ B\) が与えられているとする.そして,なんらかの規則や取り決めなどによって,集合 \(A\) の各元に \(B\) の元がひとつだけ対応しているとする.このとき,この対応規則,あるいは取り決めなどを写像という.また,\(A\) を定義域,あるいは始域,\(B\) を値域,あるいは終域という. 

 写像を表す記号には,適当なアルファベットを用いる.とくに,関数;function の頭文字 \(f\) とそれに続くアルファベットをよく使う.写像 \(f\) が \(A\) から \(B\) への写像であることを$$f:A\to{}B$$で表す.また,写像 \(f:A\to{}B\) が与えられたとき,集合 \(A\) の元 \(a\) に集合 \(B\) の元 \(b\) が対応していることを,$$f(a)=b$$で表す.また,写像 \(f\) が \(A\) の元 \(a\) を \(B\) の元 \(b\) に移すような写像であることを,$$f:a\mapsto{}b$$で表す.

例 5.2 写像の例

 \(A=\{1,2,3\},\ B=\{1,2\}\) とする.そして,\(A\) の元 \(1\) に \(B\) の元 \(1\) が,\(A\) の元 \(2\) に \(B\) の元 \(2\) が,\(A\) の元 \(3\) に \(B\) の元 \(2\) が対応しているとし,この対応を写像 \(f\) とすると,$$f:A\to{}B$$であり,

\(f(1)=1\)
\(f(2)=2\)
\(f(3)=2\)

である.もちろん,三角関数や多項式などの関数や,多項式で表された関数を微分するという操作,なども写像とみることができる.

例 5.3 恒等写像

 空でない集合 \(A\)  に対して,\(A\) の各元 \(a\) に \(a\) 自身を対応させることを考えると,この対応規則は写像になる.この写像と恒等写像といい,$$\mathrm{Id}_{A},1_{A}$$といった記号で表す.どの集合の恒等写像を表しているかが明らかなときは,添字を省略することもある.

\(\)

 さて,上で写像を定義したが,このような方法では対応規則,取り決めなどといった言葉を使わざるを得ない.そこで,さらに曖昧さをなくすために直積という概念を使って写像を定義し直そう2)もちろん,大抵の場合は初めに紹介した写像の定義で不自由しない.ただし,本来なら,初めからこちらが写像の定義であると紹介すべきであろう.今はわかりやすさを優先してこのような言及の仕方にした.

定義 5.4 2つの集合の直積

 集合 \(A,B\) が与えられているとする(一方が空でも両方空でもよい).このとき,\(A\) の元 \(a\) と\(B\) の元 \(b\) からなる順序対 \({}(a,b)\) の集合,すなわち

\(\{(a,b)\ |\ a\in{}A,b\in{}B\}\)

のことを,集合 \(A,B\) の直積といい,$$A\times{}B$$で表す.このとき,元を書き並べる順序も考慮する.例えば,仮に \(A=B=\mathbb{R}\) であったとしても,$$a\not=b\Rightarrow(a,b)\not=(b,a)$$である.また、\(A=B\) であるとき,$$A^{2}$$とも書く.

例 5.5 座標平面

 \(A=B=\mathbb{}R\) とすると,直積 \(A\times{}B\) は$$A\times{}B=\mathbb{R}^{2}=\{(x,y)\ |\ x,y\in\mathbb{R}\}$$となる.すなわち,2次元空間の「座標」全体の集合になる3)\(n\) 個の実数を成分とする座標空間に適当な演算と距離を定義したものを \(n\) 次元ユークリッド空間という.この例は,2次元ユークリッド空間の例である.

定義 5.6 写像の定義2

 集合 \(A,B\) が与えられているとする.直積 \(A\times{}B\) の部分集合 \(f\) を与えたとする4)集合\(A,B\)に対し,直積\(A\times{}B\)の部分集合を,一般に二項関係という.写像はその一例となっている..\(f\) が条件
$$\forall{}a\in{}A,\ \exists{}b\in{}B\ \ \mathrm{s.t.}\ “
(a,b)\in{}f\ ”\ \ かつ\ \ “\ b\ でない任意の\ B\ の元\ \beta\ に対して (a,\beta)\notin{}f\ ”$$ を満たすとする.つまり,任意に与えた \(A\) の元 \(a\) に対し,\({}(a,b)\in{}f\) なるような \(b\in{}B\) がひとつだけあるとする(記号\(\forall,\exists\)についてはこちらを参照).
 このとき,\(f\) を写像とよび,\(f(a)\) を,

\({}(a,f(a){})\in{}f\ を満たす\ B\ の元\)

と定義する.\({}(a,b)\in{}f\) となる \(b\) は各 \(a\) に対して一つしかないので,\(f(a)\) は矛盾なく定義されている.

例 5.7 例 5.2 の書き直し

 \(A=\{1,2,3\},\ B=\{1,2\}\) とする.先ほどの例だと,$$f=\{(1,1),(2,2),(3,2)\}$$ である.こう決めると,定義から

\(f(1)=1\)
\(f(2)=2\)
\(f(3)=2\)

例 5.8 直積を使った恒等写像の定義

 空でない集合 \(A\) に対して,\(f=\{(a,a)\ |\ a\in{}A\}\) とすれば,\(f=\mathrm{Id}_{A}\)

\(\ \)

 ここで,ことわりなく使っても曖昧さはないと思うが,写像が等しいことを定義しておく.

定義 5.9 写像の相等

 写像 \(f:A{}\to{}B\),\(g:A\to{}B\) が与えられたとき,

\(任意の a\in{}A に対して,f(a)=g(a)\)

をみたすとき,$$f=g$$と表記し,\(f\) と \(g\) は等しい,という.もちろん,写像を直積を使って定義したときは,直積の部分集合として等しいことと写像として等しいこととは同値である(したがって,上記のような表記が許される).

 

写像の合成

 ここで,高校でいうところの「合成関数」の一般化である「写像の合成」の定義を与えよう.

定義 5.10 写像の合成

 写像 \(f:A\to{}B\) および \(g:B\to{}C\) が与えられたとする.このとき,写像 \(g\circ{}f:A\to{}C\) を$$g\circ{}f:a\mapsto{}g\left(f(a)\right)$$と定義し,これを \(f,g\) の合成,合成写像などという.

例 5.11 写像の合成の例1

 \(f:A\to{}B\),\(g:B\to{}C\) を写像とする.このとき,

\(\mathrm{Id}_{B}\circ{}f=f\)
\(g\circ{}\mathrm{Id}_{B}=g\)

が成り立っている.

例 5.12 写像の合成の例2

 高校で習った三角関数,多項式は写像の一例である.\(f:\mathbb{R}\to\mathbb{R},g:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\) をそれぞれ,
$$\begin{align}
f:&\ x\mapsto{}2\cos{}x\\
g:&\ x\mapsto{}x^{2}
\end{align}$$
とすると,
$$\begin{align}
(g\circ{}f)(x)&=g\left(f(x)\right)&=4\cos^{2}{}x\\
(f\circ{}g)(x)&=f\left(g(x)\right)&=2\cos{}x^{2}
\end{align}$$
となる.ここで,
$$\begin{align}
(g\circ{}f)(0)&=4\\
(f\circ{}g)(0)&=2
\end{align}$$
である.一般には,\(g\circ{}f\not=f\circ{}g\) である.

ちょっとした余談:「関数」という単語について

 高校では,よく,関数という語を使ったと思う.すでに述べたように,高校で習った関数は写像とみなせるので,その意味で,写像は関数を一般化したものになっている.また,中学生用の教科書では,私の記憶が正しければ

 \(x\) の値が決まれば \(y\) の値が決まるとき,\(y\) は \(x\) の関数である,という

というふうに書いてあったと思うが,関数とはなにか?という問題には一切触れていない.

 では,結局関数とは何なのか?というと,写像,あるいはその一部や「多価関数」(\(x\) に対し,複数の\(y\) の値が定まりうる)などを指して使われる言葉である.数から数への写像を関数,と呼ぶ人もいれば,写像そのものを関数,と呼ぶ人もいる.このサイトでは,原則として数から数への写像を関数とよんでいる.(あまり神経質にならなくても,誤解は生まれにくい)

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References   [ + ]

1. 三角関数,および指数,対数関数について微分積分学の記事でもうすこし詳しく触れるつもりである.ただし,三角関数を定義するときに級数の収束,あるいは曲線の長さといった定義に必要な概念についてのくわしい考察を高校では飛ばしている,などの事情を考えると,高校で習うこれらの関数の性質は全く「既知」ではない.
2. もちろん,大抵の場合は初めに紹介した写像の定義で不自由しない.ただし,本来なら,初めからこちらが写像の定義であると紹介すべきであろう.今はわかりやすさを優先してこのような言及の仕方にした.
3. \(n\) 個の実数を成分とする座標空間に適当な演算と距離を定義したものを \(n\) 次元ユークリッド空間という.この例は,2次元ユークリッド空間の例である.
4. 集合\(A,B\)に対し,直積\(A\times{}B\)の部分集合を,一般に二項関係という.写像はその一例となっている.