「微分積分学」4.開集合と閉集合

4.開集合と閉集合

 この記事では,\(\mathbb{R}\)の開集合や閉集合の定義とその性質について解説する.これまでの記事で,実数の連続性を説明する6つの同値な定理のうち4つが同値であることを解説し,残りふたつは

・ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理
・ハイネ=ボレルの被覆定理       

である.これらの定理について述べる前に開集合と閉集合についてふれておきたいので,その1次元の場合の解説をしようというわけである.

距離

 集合を空間と,その元を点とみなして空間の議論をおこなう.なので,あらかじめ「距離」を測定できるとは考えずに,距離を定めるような関数を与えて(与えられたとして)議論をおこなう.

 この記事では,\(\mathbb{R}\) を空間とみて,2点間の距離を定める関数を導入する.(これまでにも,このサイトで\(\mathbb{R}\)の元を点と表現したことがあったと思うが,このような事情によるものである.)

定義 4.1 \(\mathbb{R}\)上の距離

 \(\mathbb{R}\) の2点 \({}(x,y)\) 間の距離を \({d}(x,y)\) で表し,それを

$${d}(x,y)=|x-y|\left(=\sqrt{(x-y)^2}\right)$$

で定義する.

 こうして定義された距離は,以下のような,直感に合う性質を持っている.

定理 4.2 距離の公理

 \(d(\cdot,\cdot)\)は,距離の公理と呼ばれる1)これが「公理」とよばれるのは,距離空間とよばれるものを定義する際に距離が満たすべきものとして導入するからである.距離空間は,このサイトでは「距離・位相」で解説する予定である.以下の3条件を満たす.

\begin{align}
(\mathrm{i})&:任意の\ x,y\in{}X\ について\ d(x,y)\leq{}0\ であり,d(x,y)=0\Leftrightarrow{}x=y\notag\\
(\mathrm{ii})&:任意の\ x,y\in{}X\ について\ d(x,y)=d(y,x)\notag\\
(\mathrm{iii})&:任意に与えた\ x,y,z\in{}X\ に対して\ d(x,z)\leq{}d(x,y)+d(y,z)\ (三角不等式)\notag
\end{align}

 ほぼ明らかなので,証明は省略する.上記のように考えた「空間」\(\mathbb{R}\)はいわば数直線であり,1次元空間である.

開集合と閉集合

 開集合と閉集合の定義を与えたい.開集合とは,点が全て内側にあるような集合で,閉集合とは,境界を含むような集合である.

 ここで,点がすべて内側にある,というのは,点の「ご近所さん」がすべて考えている集合に含まれることである.この「ご近所さん」を,(どれくらい近所なのかも考慮して)以下のように定義する.

定義 4.3 \(\varepsilon\) 近傍

 点 \(x\) (すなわち,\(\mathbb{R}\) の元 \(x\)) に対し,集合

$$\{y\in\mathbb{R}\mid{}{d}(x,y)<\varepsilon\}$$

を,\(x\) の \(\varepsilon\)近傍といい,

$$B(x;\varepsilon)$$

であらわす2)Bはboal,球の頭文字である.3次元ユークリッド空間(ふつうの \(xyz\)空間)だと,\(B(x;\varepsilon)\)が球体の内部になる..\(B_{\varepsilon}(x),N(x;\varepsilon),N_{\varepsilon}(x)\) といった記号が使われることもある.\(\mathbb{R}\) の点 \(x\) の \(\varepsilon\) 近傍は,開区間 \({}(x-\varepsilon,x+\varepsilon)\) と一致する.

 これで,「点の近く」が定義できた.これを用いて開集合,閉集合を定義するため,また,開集合や閉集合を用いた議論を行うときのため,内点,外点,境界点という概念を新たに定義しよう.

定義 4.4 内点,外点,境界点

 \(\mathbb{R}\) の部分集合 \(A\) を任意に与える.(\(A^c\) は \(A\) の補集合で,以下では,\(A^c=\{x\in\mathbb{R}\mid{}x\notin{}A\}\))

  • 点\(\ x\in\mathbb{R}\ \)に対し,ある\(\ \varepsilon{}\ \)があって\(\ B(x;\varepsilon)\subset{}A\ \)なるとき,\(x\) を \(A\) の内点という.
  • 点\(\ x\in\mathbb{R}\ \)に対し,ある\(\ \varepsilon{}\ \)があって\(\ B(x;\varepsilon)\subset{}A^c\ \)なるとき,\(x\) を \(A\) の外点という.
  • 点\(\ x\in\mathbb{R}\ \)に対し,任意の正数\(\ \varepsilon{}\ \)について\(\ B(x;\varepsilon)\cap{}A^c\not=\emptyset{}\ \)かつ\(\ B(x;\varepsilon)\cap{}A\not=\emptyset{}\) なるとき,\(x\) を \(A\) の境界点という.

 これらの定義は,名前から思い浮かべうるような直感的なものと一致すると思う.念のため,簡単な例で確認しておこう.

例 4.5 内点,外点,境界点

 \(\mathbb{R}\) の点 \(a,b\) で \(a<b\) なるものを与えたとし,開区間 \({}(a,b)\) と閉区間 \([a,b]\) について考えよう.

 \(x\in{}(a,b)\)に対し,
$$\varepsilon=\frac{1}{2}\mathrm{min}\{x-a,b-x\}$$
とおくと3)\(\mathrm{min}A\)は,集合\(A\)の最小限を表す記号である.,\(B(x;\varepsilon)\subset(a,b)\)であり,\((a,b),[a,b]\) 双方の内点である.

 \(x\notin[a,b]\) に対し,ほとんど同様の議論から,\(x\) は \({}(a,b),[a,b]\) 双方の外点である.

 \(a\) は,\((a,b),[a,b]\) 双方の境界点である.
 任意に \(\varepsilon>0\) を与えたとする.\(a-\varepsilon/2\) は,\(B(x;\varepsilon)=(a-\varepsilon,a+\varepsilon)\) に含まれるが, \((a,b),[a,b]\) の双方に含まれない.そして,\(\mathrm{min}\{\varepsilon,b-a\}=\varepsilon{}’\) とおくと,\(a+\varepsilon{}’/2\) は \((a,b),[a,b]\) の双方に含まれ,もちろん,\(B(x;\varepsilon)\) にも含まれる.したがって,
$$B(a;\varepsilon)\cap{}A^c\not=\emptyset{}\ かつ\ B(a;\varepsilon)\cap{}A\not=\emptyset{}$$
が任意の \(\varepsilon>0\) について成り立つ.同様にして,\(b\) も \((a,b),[a,b]\) の双方の境界点である.

以上の議論から,\((a,b),[a,b]\)のどちらについても,

\begin{align}
1:&内点全体の集合は(a,b)である\notag\\
2:&外点全体の集合は(-\infty,a)\cup(b,+\infty)である\notag\\
3:&境界点全体の集合は\{a,b\}である\notag
\end{align}

ことがわかった.

 以上で,内点,および境界点の定義や意味が明らかになったと思う.これらを用いて,開集合と閉集合を以下のように定義する.

定義 4.6 開集合,閉集合

 \(\mathbb{R}\) の部分集合 \(A\) が与えられたとき,

\begin{align}
1:&内点全体の集合が\ A\ と一致するとき,A\ は\textbf{開集合}であるという.\notag\\
2:&内点と境界点の全体の集合が\ A\ と一致するとき,A\ は\textbf{閉集合}であるという.\notag
\end{align}

先に述べたように,簡単にいうと,境界を完全に含むのが閉集合,全く含まないのが開集合である.

例 4.7 開集合,閉集合

 例 4.6 で考察したことから,開区間 \({}(a,b)\) は開集合であり,閉区間 \([a,b]\) は閉集合である.

 これは区間の端が無限大でも \(\pm\infty\) が実数の元ではなく,境界点になり得ないことに注意すれば成り立つ.例えば,\((-\infty,r)\) は任意の実数 \(r\) について開集合であり,\((-\infty,r]\) は任意の実数 \(r\) について閉集合である.

例 4.8 空集合,全体集合

 空集合 \(\emptyset\) と全体集合 \(\mathbb{R}\) は,開集合であり,かつ閉集合でもある.

 空集合は,内点全体の集合も境界点全体の集合も,空集合である.\(\mathbb{R}\) は,内点全体の集合が自身と一致し,境界点全体の集合は空集合である.

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References   [ + ]

1. これが「公理」とよばれるのは,距離空間とよばれるものを定義する際に距離が満たすべきものとして導入するからである.距離空間は,このサイトでは「距離・位相」で解説する予定である.
2. Bはboal,球の頭文字である.3次元ユークリッド空間(ふつうの \(xyz\)空間)だと,\(B(x;\varepsilon)\)が球体の内部になる.
3. \(\mathrm{min}A\)は,集合\(A\)の最小限を表す記号である.