「集合と写像」3.1 関係,順序とその関連用語の定義

この記事では,関係とそれに関するいくつかの用語の定義を解説し,例を挙げる.

関係

集合 \(X\) が与えられており,\(X\) の元からなる順序対 \({}(a,b){}\) に対してあてはまるかあてはまらないかを(原理的には)判定できる条件が与えられているとしよう(例えば,実数の順序がそうである).このとき,\({}(a,b){}\) がその規則を満たすか満たさないかにより,\(X\) のふたつの元がどのように関わりあっているか,ひとつの指標を与えることができる.

上のような状況の下では,条件を満たす \({}(a,b){}\) の集まりとその条件を同一視してもよいであろう.そこで,逆に「条件」を順序対の集まりによって定義できる.このような考えのもと,以下のようにして関係を定義する.

定義 3.1.1 関係

集合 \(X\) に対し,直積 \(X\times{}X\) の部分集合を「関係」という.

 

この定義のもとで,一般には,与えられた関係を \(R\) または \(\sim\) と表記し,\({}(x,y)\in{}R{}\) であることを \(xRy\),\(x\sim_{R}y\),あるいは単に \(x\sim{}y\) と表記することが多い.(なお,普通 \({}(x,y)\in\sim\) とは書かない.)この場合,\({}(x,y)\notin{}R\) であることを,斜線を入れて,例えば \(x\not\sim{}y\) 表記する.以下 \(x\sim{}y\) を採用することにする.

このような定義をするメリットは,関係を集合で記述できるので,いつ \(x\sim{}y\) なのかが明確に定まることである.なお,関係を定めるには,いつ \(x\sim{}y\) であるかを明確にしておけばそれで十分である.いつでもすぐに集合による定義に立ち返ることができる(ただし,通常数学を行う上でそれが求められることはまずない).

例 3.1.2

\(X\) を空でない集合とし,\(R=\{(x,x)\mid{}x\in{}X\}\) とおくと,\(R\) は関係である.このとき,

$$x=y\Leftrightarrow{}x\sim{}y$$

 

例 3.1.3

\(\mathbb{R}\) について \(\mathbb{R}\times\mathbb{R}\) の部分集合 \(f\) を

$$f=\{(x,y)\in\mathbb{R}\times\mathbb{R}\mid{}y=x^3\}$$

とすれば,もちろん \(f\) は \(\mathbb{R}\) 上の関係である.(普通,この集合が \(f(x)=x^3\) なる関数 \(f\)「そのもの」として採用される.写像の定義も参照)



 

ここで,関係がもちうる性質の内で,よく考察されるものを紹介しよう.

定義 3.1.4

  1. 「任意の \(x\in{}X\) に対し,\(x\sim{}x\)」を反射律という
  2. 「任意の \(x,y\in{}X\) に対し,\(x\sim{}y\Rightarrow{}y\sim{}x\)」を対称律という
  3. 「任意の \(x,y,z\in{}X\) に対し,[\(x\sim{}y\) かつ \(y\sim{}z]\Rightarrow{}x\sim{}z{}\)」を推移律という
  4. 「任意の \(x,y\in{}X\) に対し,[\(x\sim{}y\) かつ \(y\sim{}x\) ] \(\Rightarrow{}x=y\)」を反対称律という

 

例 3.1.5

例 13.2 のように,\(\sim\) を \(=\) で定めると,上記の性質をすべて満たす.

 

例 3.1.6

例 13.3 のように,\(x,y\in\mathbb{R}\) について \(y=x^3\Leftrightarrow{}x\sim{}y\) と定めると,反射律,対称律,推移律は成り立たない.\(0,\pm1\) でない実数を考えれば,簡単に反例を得ることができる.

反対称律は成立する.\(y=x^3\) かつ \(x=y^3\) ならば \(x=x^9,y=y^9\) となることから, \(x,y\in{}\mathbb{R}\) としてありうるのは \(0,\pm1\) のみである.あとは代入すれば \({}(x,y)=(0,0),\pm(1,1)\) となることがわかる.



 

順序

これまでに述べてきた内容をもとに,「半順序」「全順序」について述べる.

全順序集合は半順序集合なので,半順序から先に述べよう.半順序とは,文字通り「順序」を定める関係であるが,任意のふたつの元の間に定められた順序ではないという点で,後で述べる全順序とは異なっている.

定義 3.1.7 半順序

集合 \(X\) 上の関係が,反射律,推移律,反対称律を満たすとき,\(X\) 上の半順序という.このとき,関係を表すのに \(\leq\) を用いることが多い.この記法の下で,順序対 \({}(X,\leq)\) を半順序集合という1)記号の乱用であるが,\({}X\) で \({}(X,\leq)\) を表すことも多い.

 

定義の内容は,\(x\leq{}x,[(x\leq{}y\) かつ \(y\leq{}z)\Rightarrow{}x\leq{}z],[(x\leq{}y\) かつ \(y\leq{}x)\Rightarrow{}x=y]\) の成立を要求しているわけである.

ここまでで説明してはいないが,\(\geq\) や \(\not\leq\) などの意味は明らかであろう.こうした記号もしばしば使われる.また,\(x\leq{}y\leq{}z\) のように,不等号を続けるのもよくあることであり,その意味するところも明らかであろう.

もっとも典型的な例は,集合の包含関係により与えられる.

例 3.1.8 包含関係による半順序

集合の族 \({}(X_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) が与えられたとする.関係 \(\leq\) を \(X_{\mu}\leq{}X_{\lambda}\stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}X_{\mu}\subseteq{}X_{\lambda}\) で定めれば,\({}({}(X_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda},\leq)\) は半順序集合になる.

実際,\(\lambda,\kappa,\mu\) を \(\Lambda\) の任意の元として,

  1. \(X_{\lambda}\subseteq{}X_{\lambda}\)
  2. [\(X_{\mu}\subseteq{}X_{\kappa}\) かつ \(X_{\kappa}\subseteq{}X_{\lambda}\)] ならば \(X_{\mu}\subset{}X_{\lambda}\)
  3. [\(X_{\mu}\subseteq{}X_{\lambda}\) かつ \(X_{\lambda}\subseteq{}X_{\mu}\)] ならば \(X_{\lambda}=X_{\mu}\)

はすべてほとんど明らかであり,1は反射律,2は推移律,3は反対称律を表している.

例えば,集合 \(A\) に対しそのべき集合 \(\mathfrak{P}(A)\) の上の関係を包含で定めれば,半順序集合になる.

 

半順序集合について,任意の元が「くらべられる」とき,全順序集合という.

定義 3.1.9 比較可能,全順序

\({}(X,\leq)\) を半順序集合とする.\(x,y\in{}X\) に対して \(x\leq{}y\) と \(y\leq{}x\) のうち少なくとも一方が成り立つとき,\(x,y\) は比較可能であるという.任意の \(x,y\in{}X\) が比較可能な半順序集合 \({}(X,\leq)\) を全順序集合といい,このとき \(\leq\) を \(X\) 上の全順序という.

全順序の場合,以上の記法の下で \(x\leq{}y\) かつ \(x\not=y\) であることを \(x<y\)と書く.左右を反転させた記号の意味などは明らかであろう.そうした記号もしばしば使われる.

例 3.1.10 全順序の例

\(\mathbb{R}\) の通常の順序は全順序である.\(\mathbb{N,Z,Q}\) についても同様.

例 3.1.11 全順序でない半順序

包含により定義された集合族の上の半順序は,一般には全順序でない.たとえば,\(\{\emptyset,\{1\}\{2\}\{1,2\}\}\) (これは \(\{1,2\}\) のべき集合である)について,\(\{1\}\subset\{2\}\) も \(\{2\}\subset\{1\}\) も成り立たない.

 

最後に,半順序について,いくつかの言葉の定義や記法を紹介する.

定義 3.1.12

\({}(X,\leq)\) を半順序集合とし,\(A\) をその部分集合とする.

\(\alpha\in{}A\) が,任意の \(a\in{}A\) に対して \(a\leq{}\alpha{}\) を満たすとき,\(\alpha{}\) を \(A\) の最大値という.\(A\) の最大値は,存在するとき,\(\mathrm{max}A\)で表される.不等号の向きを変えて,\(\alpha\in{}A\) が,任意の \(a\in{}A\) に対して \(\alpha\leq{}a{}\) を満たすとき,\(\alpha{}\) を \(A\) の最小値という.\(A\) の最小値は,存在するとき,\(\mathrm{min}A\) で表される.

\(x\in{}X\) が,任意の \(a\in{}A\) に対して \(a\leq{}x{}\) を満たすとき,\(x{}\) を \(A\) の上界であるという.不等号の向きを変えて,\(x\in{}X\) が,任意の \(a\in{}A\) に対して \(x\leq{}a{}\) を満たすとき,\(x{}\) を \(A\)の下界であるという.

\(A\) の上界の最小値が存在するとき,それを \(A\) の上限といい,\(\mathrm{sup}A\) であらわす.\(A\) の下界が存在するとき,それを \(A\) の下界といい,\(\mathrm{inf}A\) であらわす.

例 3.1.13

\({}(\mathbb{R},\leq)\) について,\(A=\{x\in\mathbb{R}\mid{}-\sqrt{2}\leq{}x\leq\sqrt{2}\ \}\) とすると,\(\mathrm{max}A=\mathrm{sup}A=\sqrt{2}\),\(\mathrm{min}A=\mathrm{inf}A=-\sqrt{2}\) である.

 

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参考書籍

この記事の内容を勉強するにあたり,定番で,筆者も使用している本を紹介します.(定価は2020年05月16日時点のものを表記しています.)

 

まずひとつ目は,内田 伏一著「集合と位相」,通称「内田」です.筆者は主にこちらを使用しています.

数学の基礎となっている集合論の内容と位相空間論の内容をまとめた本です2)普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています..なお,筆者が用いているのはこれの旧版で,増補改訂版では,演習問題の解答が拡充されているようです.


 

 

  ふたつ目は,松坂 和夫著「集合・位相入門」,通称「松坂」です. 内田同様,位相空間まで網羅した内容となっているほか,濃度の演算や順序数の古典的な扱いにふれられています(内田では省略されている).なお,筆者は,こちらの本も旧版を使っています.  


 

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References   [ + ]

1. 記号の乱用であるが,\({}X\) で \({}(X,\leq)\) を表すことも多い.
2. 普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています.