「集合と写像」3.2 同値関係,商集合

この記事では,同値関係と商集合の定義やその例について解説する.これらの概念は,集合とその上の構造を合わせて考えるとき,似た性質をもつものなどを「同一視」する際に用いられる.



同値関係の定義

同値関係とは,集合の二元が「同じようなものか否か」を定めるものとしてよく用いられる.まず,同値関係を定義するのに必要なことばや記法を紹介しておく.

 

集合 \(X\) の任意の二元 \(x,y\) について,満たすか満たさないかを明確に判定できる条件がるとき,それを( \(X\)の上の)関係,二項関係などとよびそれを満たすとき \(x\sim{}y\) などと書く.また,関係そのものを \(\sim\) と書いたりする.(くわしくは 3.1 関係,順序とその関連用語の定義 を参照)

 

さらに,関係について,以下のような用語を定義しておく.

定義 3.2.1

\begin{align}
\mathrm{(i)}&\ 「任意の\ x\in{}X\ に対し\ x\sim{}x」を反射律という.\notag\\
\mathrm{(ii)}&\ 「任意の\ x,y\in{}X\ に対し\ x\sim{}y\Rightarrow{}y\sim{}x」を対称律という.\notag\\
\mathrm{(iii)}&\ 「任意の\ x,y,z\in{}X\ に対し\ [x\sim{}y\ かつ\ y\sim{}z]\Rightarrow{}x\sim{}z{}」を推移律という.\notag
\end{align}

 

同値関係とは,上記3つを満たす関係のことである.

定義 3.2.2 同値関係

同値関係とは,反射律,対称律,推移律を満たす関係である.すなわち,関係 \(\sim\) が

\begin{align}
\mathrm{(i)}&\ 任意の\ x\in{}X\ に対し\ x\sim{}x\notag\\
\mathrm{(ii)}&\ 任意の\ x,y\in{}X\ に対し\ x\sim{}y\Rightarrow{}y\sim{}x\notag\\
\mathrm{(iii)}&\ 任意の\ x,y,z\in{}X\ に対し\ [x\sim{}y\ かつ\ y\sim{}z]\Rightarrow{}x\sim{}z{}\notag
\end{align}

を満たすとき,同値関係という.

 

上の定義は,インフォーマルには,同じものは同じようなものでもあり,同じようなものか否かの判断に記述する順番は関係なく,「同じようなものに同じようなもの」は「同じようなもの」である,ということである.

 

例を挙げよう.

例 3.2.3 自明な同値関係

集合 \(X\) が与えられているとする.関係 \(\sim\) を \(x\sim{}y\Leftrightarrow{}x=y\) で定めれば,これは当然同値関係である1)これが同値関係の定義にあてはまるように同値関係が定義されている,といった方が正確かもしれない

 

例 3.2.4 自明な同値関係

集合 \(X\) 上の関係 \(\sim\) を,任意の \(x,y\in{}X\) について \(x\sim{}y\) である,と定めると,この関係は同値関係になっている.

 

例 3.2.5 整数の剰余

全ての整数からなる集合 \(\mathbb{Z}\) について考える.任意に正の整数 \(n\) が与えられたとし,\(n\mathbb{Z}\) を \(n\mathbb{Z}:=\{na\mid{}a\in\mathbb{Z}\}\) と定める.このような状況の下で,\(a,b\in\mathbb{Z}\) について

$$a\sim{}b\Leftrightarrow{}a-b\in{}n\mathbb{Z}$$

として関係 \(\sim\) を定めると,\(\sim\) は同値関係である.

これを定義に従って確認してみよう.まず,反射律は \(a-a=0\in{}n\mathbb{Z}\) より成立しており,対称律は \(x\in{}n\mathbb{Z}\Leftrightarrow{}-x\in{}n\mathbb{Z}\) と \(a-b=-(b-a)\) よりわかる.推移律については,\(na+nb=n(a+b)\) より \(x,y\in{}n\mathbb{Z}\Rightarrow{}x+y\in{}n\mathbb{Z}\) ゆえ,\(a\sim{}b\) かつ \(b\sim{}c\) ならば \(a-c=(a-b)+(b-c)\in{}n\mathbb{Z}\) が成立していることからわかる.

この同値関係は,「 \(n\) で割った余りが等しい」ことを表現するものとなっている.

 



 

同値類と商集合

同値関係があれば,「同じようなもの」か否かを判定できるのだから,「同じようなものの集まり」を集合として定めることができる.

定義 3.2.6 同値類

集合 \(X\) とその上の関係 \(\sim\) が与えられたとする.このとき,\(x\in{}X\) について,集合

$$\{\ y\in{}X\mid{}x\sim{}y\ \}$$

を \(x\) の同値類といい,\([x]\),\(C(x)\),\(\overline{x}\),\(\widetilde{x}\) などで表す.この記事では,主に \([x]\) を採用する.

 

商集合を,同じようなものを同一視してえられる集合として定めたい.そこで,元を同値類にしてしまうのである.

定義 3.2.7 商集合

集合 \(X\) とその上の同値関係 \(\sim\) が与えられているとする.\(X\) の各元の同値類の集合 $$\{\ [x]\mid{}x\in{}X\ \}$$ を,\(X\) の \(\sim\) による商集合といい,\(X/{\sim}\) で表す.

 

また,以下のような写像も定義できる.

定義 3.2.8 商写像

\(X\) と商集合 \(X/{\sim}\) について,写像

$$\pi:x\mapsto[x]$$

を商写像,自然な全射,標準的な全射,自然な射影,標準射影などと呼ぶ.

 

同値類を表すのにその元を用いるのもいたって自然であろう.

定義 3.2.9 代表元と完全代表系

集合 \(X\) と同値関係 \(\sim\) が与えられているとする.\(X/{\sim}\) の元 \(A\) について,\(A\) の元を代表元と呼ぶ.これは,\(a\in{}A\) なら \(A=[a]\) となるからである.

また,\(X\) の部分集合 \(S\) が

\begin{align}
\mathrm{(i)}&:\ x,y\in{}S\Rightarrow[x]\cap[y]=\emptyset\notag\\
\mathrm{(ii)}&:\ A\in{}X/{\sim}\ \Rightarrow{}\exists{}x\in{}S(A=[x])\notag
\end{align}

が成立するとき,すなわち,\(X/{\sim}\) の各元から代表元をひとつずつ選んだ集合になっているとき,\(S\) を( \(X\) の同値関係 \(\sim\) の)完全代表系という.

 

商集合を用いて,同値関係が与えられた集合の各元を完全に分類できる.

定理 3.2.10 同値関係による直和分解

集合 \(X\) とその同値関係が与えられたとき,任意の \(x,y\in{}X\) について

$$[x]\cap[y]\not=\emptyset\Leftrightarrow[x]=[y]\Leftrightarrow{}x\sim{}y$$

が成り立っている.したがって,\(\displaystyle X=\bigcup_{x\in{}X}[x]=\bigcup{}X/\sim\) と表され2)集合 \(Y\) の元がすべて集合の時,\(Y\) の元全ての和集合を \(\bigcup{}Y\) で表す,これは非交和(直和),すなわち,交わらない集合同士の和集合となっている.

 

証明

\([x]\cap[y]\not=\emptyset\) とする.\([x]\cap[y]\) の元 \(z\) を任意に与えると,\(x\sim{}z\) と \(y\sim{}z\) が成り立っているので,対称律と推移律から \(x\sim{}y\) である.\(x\sim{}y\) なら \(x\in[x]\cap[y]\) ゆえ \([x]\cap[y]\not=\emptyset\).以上より,\([x]\cap[y]\not=\emptyset\Leftrightarrow{}x\sim{}y\).

\([x]=[y]\) とすると,\(y\in{}[x]\) より \(x\sim{}y\) である.\(x\sim{}y\) とすると,\(z\in{}X\) について,\(x\sim{}z\) なら \(x\sim{}y\) と対称律,推移律から \(y\sim{}z\) であり,同様に,\(y\sim{}z\) なら \(x\sim{}z\) である.よって \(x\sim{}z\Leftrightarrow{}y\sim{}z\) ゆえ,\([x]\),\([y]\) の定義より \([x]=[y]\).

後半の主張は,前半の主張より明らかである.

(証明終)

 

例 3.2.11 \(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\)

例 3.2.5 と同様に,正の整数 \(n\) について \(n\mathbb{Z}=\{na\mid{}a\in\mathbb{Z}\}\) とし,\(\mathbb{Z}\) 上の同値関係を \(a\sim{}b\Leftrightarrow{}a-b\in{}n\mathbb{Z}\) で定める.このとき,商集合 \(\mathbb{Z}/{\sim}\) は \(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\) と表記することが多い.\(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\) は,(その演算と共に)代数学で重要な役割を演じる.

\(a\in\mathbb{Z}\) の同値類を \(\overline{a}\) で表すことにすると,

$$\mathbb{Z}/{\sim}\ =\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}=\{\overline{0},\overline{1},\cdots,\overline{n-1}\}$$

である.\(\{0,1,\cdots,n-1\}\) は完全代表系である.商写像は,先に挙げた完全代表系を用いて記述すると,\(\mathbb{Z}\) の各元にそれを \(n\) で割ったあまりを対応させる写像のようになっている.

 

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参考書籍

この記事の内容を勉強するにあたり,定番で,筆者も使用している本を紹介します.(定価は2020年05月16日時点のものを表記しています.)

 

まずひとつ目は,内田 伏一著「集合と位相」,通称「内田」です.筆者は主にこちらを使用しています.

数学の基礎となっている集合論の内容と位相空間論の内容をまとめた本です3)普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています..なお,筆者が用いているのはこれの旧版で,増補改訂版では,演習問題の解答が拡充されているようです.


 

 

  ふたつ目は,松坂 和夫著「集合・位相入門」,通称「松坂」です. 内田同様,位相空間まで網羅した内容となっているほか,濃度の演算や順序数の古典的な扱いにふれられています(内田では省略されている).なお,筆者は,こちらの本も旧版を使っています.  


 

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References   [ + ]

1. これが同値関係の定義にあてはまるように同値関係が定義されている,といった方が正確かもしれない
2. 集合 \(Y\) の元がすべて集合の時,\(Y\) の元全ての和集合を \(\bigcup{}Y\) で表す
3. 普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています.