「集合と写像」3.5 整列集合と順序を保つ写像,比較可能定理

この記事では整列集合の間の順序を保つ写像について考える.整列性は様々な興味深い結果をもたらしてくれる.整列集合の比較可能定理が主な目標である.



自身との比較

ここでは,\(f:X\to{}X\) が順序を保つときにどんなことが起こるかを考えよう.

定理 3.5.1

\(X\) が整列集合であるとし,\(f:X\to{}X\) が順序を保つとする.このとき,\(x\leq{}f(x)\).

証明

\(A=\{x\in{}X\mid{}f(x)<x\}\) とおく.\(A\not=\emptyset\) であるとすると,\(A\) に最小元が存在するので,それを \(a\) とおく.このとき,\(f(f(a))<f(a)<a\) であり,これは \(f(a)\in{}A\) かつ \(f(a)<a\) を示しており矛盾.以上より,\(A=\emptyset\) であり,それゆえ任意の \(x\in{}X\) に対して \(x\leq{}f(x)\) である.

(証明終)

 

系 3.5.2

整列集合は,自身の切片とは同型にならない.

証明

ある \(a\in{}X\) があり \(X\cong{}X\langle{}a\rangle\) とする.\(f:X\to{}X\langle{}a\rangle\) が順序同型写像であるとする.また,\(i:X\langle{}a\rangle\to{}X\) を包含写像とする.このとき,\(i\circ{}f\)は\(X\) から \(X\) への順序を保つ写像である.ところが,\({}(i\circ{}f)(a)\in{}X\langle{}a\rangle\) ゆえ,\({}(i\circ{}f)(a)<a\) である.これは定理 3.5.1 に矛盾する.

(証明終)

 

ただし,整列集合が自身の部分集合と順序同型にならないわけではない.

例 3.5.3

負でない整数全体の集合を \(\mathbb{N}\) とすると,\(\mathbb{N}\) は通常の順序について整列集合であり,\(\mathbb{N}\cong\mathbb{N}\setminus\{0\}\) が成立する.同型写像は,\(n\mapsto{}n+1\) で与えられる.

 

定理 3.5.4

\(f:X\to{}X\) が順序同型なら,\(f\) は恒等写像である.

証明

\(A=\{x\in{}X\mid{}f(x)\not=x\}\) とおく.\(A\not=\emptyset\) と仮定し,\(a=\min{}A\) とおく.このとき,定理 3.5.1 より \(a<f(a)\) となる.\(f\) は順序同型写像ゆえ \(f(x)=a\) なる \(x\in{}X\) が一意に存在し,この \(x\) について,\(x\leq{}f(x)=a\) かつ \(f(a)\not=x\) より \(x\not=a\) である.よって,\(x<a\) であるが,\(f(x)\not=x\) ゆえ \(x\in{}A\) となり,\(a=\min{}A\) と矛盾.したがって,\(A\not=\emptyset\) であり,それゆえ \(f\) は恒等写像である.

(証明終)

 

定理 3.5.5

\(X\) を整列集合とし,\(X\) の二元 \(a,b\) について \(b<a\) であるとする.このとき,\({}(X\langle{}a\rangle)\langle{}b\rangle={}X\langle{}b\rangle\).

証明

\begin{align}
x\in{}(X\langle{}a\rangle)\langle{}b\rangle
&\Leftrightarrow{}x\in{}X\langle{}a\rangle{}かつx<b\notag\\
&\Leftrightarrow{}x\in{}Xかつx<aかつx<b\notag\\
&\Leftrightarrow{}x\in{}Xかつx<b\notag\\
&\Leftrightarrow{}x\in{}X\langle{}b\rangle\notag
\end{align}

(証明終)



 

比較可能定理

ここでは,ふたつの整列集合の間に成立する関係についてしらべる.切片には,元の整列集合と同様の順序をいれるものとする(これにより,切片は整列集合となる.なお,普通はそうする).

定理 3.5.6

ふたつの整列集合 \(X,Y\) が順序同型であるとする.このとき,\(X\) の各元 \(a\) に対してただひとつの \(Y\) の元 \(b\) が存在して \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\).

証明

\(f:X\to{}Y\) が順序同型写像であるとする.明らかに,\(f\) の制限により \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}f(a)\rangle\) である.以下,一意性を示す.

もし \(b\in{}Y\) があって \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) であれば,\(Y\langle{}f(a)\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) である.\(f(a)\not=b\) とし,さらに \(f(a)<b\) とすると,定理 3.5.5 より \(Y\langle{}f(a)\rangle\) は \(Y\langle{}b\rangle\) の切片であるが,そうすると,\(Y\langle{}b\rangle\) が自身の切片と順序同型になることになり矛盾.\(f(a)>b\) の場合も同様.したがって,\(f(a)=b\) である.よって,\(X\langle{}a\rangle\) と順序同型になりうる \(Y\) の切片はただひとつである.

(証明終)

 

じつは,ふたつの整列集合について,片方がもう一方,またはもう一方の切片と順序同型になることが知られている.これが「比較可能定理」である.

 

定理 3.5.7 整列集合の比較可能定理

\(X,Y\) を整列集合とする.以下のいずれかのうちひとつが成り立つ.

\begin{align}
\mathrm{(i)}&:X\cong{}Y\notag\\
\mathrm{(ii)}&:ある\ X\ の元\ a\ があり,X\langle{}a\rangle\cong{}Y\notag\\
\mathrm{(iii)}&:ある\ Y\ の元\ b\ があり,X\cong{}Y\langle{}b\rangle\notag
\end{align}

証明

まず,\(\mathrm{(i),(ii)}\),\(\mathrm{(i),(iii)}\),\(\mathrm{(ii),(iii)}\) が同時には成り立たないことを示す.

\(\mathrm{(i),(ii)}\),あるいは \(\mathrm{(i),(iii)}\) が同時には成り立たないことは,系 3.5.2 (整列集合は自身の切片とは順序同型にならない)からわかる.\(\mathrm{(ii),(iii)}\) が同時に成り立たないことを,背理法で示す.同時に成り立っていると仮定すると,定理 3.5.5 と定理 3.5.6 より,ある \(a’\in{}X\langle{}a\rangle\) があり,\(X\cong{}Y\langle{}{}b\rangle\cong{}(X\langle{}a\rangle)\langle{}a’\rangle=X\langle{}a’\rangle\) で,系 3.5.2 に矛盾.

以上より,\(\mathrm{(i),(ii),(iii)}\) は,このうちのどのふたつも同時に成立しない.



次に,いずれかひとつが成立することを示す.

\(A=\{a\in{}X\mid{}あるb\in{}YがありX\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\}\)
\(B=\{b\in{}Y\mid{}あるa\in{}XがありX\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\}\)

とおく.このとき,\(a\in{}A\) に対して \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) となる \(b\in{}Y\) は,系 3.5.2 と定理 3.5.6 より,一意に定まる(\(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\cong{}Y\langle{}b’\rangle\) とすると,\(b<b’\) のとき定理 3.5.5 より \({}Y\langle{}b\rangle=(Y\langle{}b’\rangle)\langle{}b\rangle\cong{}Y\langle{}b’\rangle\) となるが,これは系 3.5.2 に矛盾,\(b'<b\) の場合も同様).同様に,\(b\in{}Y\) に対して,\(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) となる \(a\in{}X\) は一意に定まる.

そこで,\(f:A\to{}B\) を,\(a\in{}A\) に対し \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) なる \(b\) を対応させる写像とし,\(g:B\to{}A\) を \(b\in{}B\) に対して \(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) なる \(a\in{}A\) を対応させる写像とする.この時,\(f,g\) は,順序同型写像である.また,\(A,B\) は \(X,Y\) と一致するかその切片である.以下,これを示す.

まず、\(A\) が \(X\) と一致するか切片であることを示す.\(X\setminus{}A=\emptyset\) なら,\(A=X\) である.\(A\not=X\) であるとする.このとき,\(c=\min{}X\setminus{}A\) とおくと,\(A=X\langle{}c\rangle\) である.これを示す.\(x\in{}X\langle{}c\rangle\) とする.このとき,\(x<c\) であるので,\(c\) の定義より,\(x\in{}A\) である.したがって,\(A\supset{}X\langle{}c\rangle\) である.\(x\in{}A\) とする.このとき,ある \(b\in{}Y\) があり,\(X\langle{}x\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\)となる.定理 3.5.6 と系 3.5.2より,\(x’\in{}X\) ならば,ある\(b’\in{}Y\) が存在して,\(X\langle{}x’\rangle\cong{}Y\langle{}b’\rangle{}\)となるので,\(x’\in{}A\)である.よって,\(c\) の定義より \(c\not\in{}A\) ゆえ,\(x<c\) であり,\(x\in{}X\langle{}c\rangle\).上記より,\(A\subset{}X\langle{}c\rangle\) であり,\(A\supset{}X\langle{}c\rangle\) とあわせて,\(A=X\langle{}c\rangle\) である.

次に,\(f\) が順序を保つことを示す.\(a,a’\in{}A\) であり,さらに \(a<a’\) であるとする.このとき,\(a\in{}X\langle{}a’\rangle\) であり,\(f\) の定義より \(X\langle{}a’\rangle\cong{}Y\langle{}f(a’)\rangle\) であるので,定理 3.5.6 と系 3.5.2 より,ある \(Y\langle{}f(a’)\rangle\) の元 \(b\) があり,\(X\langle{}a\rangle\cong{}Y\langle{}b\rangle\) であるが,\(f\) の定義より \(b=f(a)\) であり,\(b\in{}Y\langle{}f(a’)\rangle\) より \(f(a)<f(a’)\) である.したがって,\(f\) は順序を保つ.

全く同様の議論により,\(B\) は \(Y\) と一致するかその切片であり,\(g\) は順序を保つ.また,それぞれの定義より,明らかに \(f,g\) は互いに逆写像である.したがって,\(f,g\) は順序同型写像である.そして,\(f,g\) により,\(A\cong{}B\) である.

ここで,\(A=X\) と \(B=Y\)のうち少なくとも一方が成立している.これを背理法で示す.\(A\not=X,B\not=Y\) であるとする.このとき,\(c=\min{}X\setminus{}A,d=\min{}Y\setminus{}B\) とすると,\(A=X\langle{}c\rangle,B=Y\langle{}d\rangle\) ゆえ,\(X\langle{}c\rangle\cong{}Y\langle{}d\rangle\)であるので,\(c\in{}A,d\in{}B\) となり矛盾.

まとめると,\(A\) が \(X\) と一致するか切片であり,\(B\) は \(Y\) と一致するかその切片であり,\(A\cong{}B\) であり,\(A=X\) と \(B=Y\)のうち少なくとも一方が成立している.したがって,\({}\mathrm{(i),(ii),(iii)}\)のうちいずれかは成り立つ.

(証明終)

 

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参考書籍

この記事の内容を勉強するにあたり,定番で,筆者も使用している本を紹介します.(定価は2020年05月08日時点のものを表記しています.)

 

まずひとつ目は,内田 伏一著「集合と位相」,通称「内田」です.筆者は主にこちらを使用しています.

数学の基礎となっている集合論の内容と位相空間論の内容をまとめた本です1)普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています..なお,筆者が用いているのはこれの旧版で,増補改訂版では,演習問題の解答が拡充されているようです.

 

 

 

ふたつ目は,松坂 和夫著「集合・位相入門」,通称「松坂」です.

内田同様,位相空間まで網羅した内容となっているほか,濃度の演算や順序数の古典的な扱いにふれられています(内田では省略されている).なお,筆者は,こちらの本も旧版を使っています.

 

 

 

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References   [ + ]

1. 普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています.