「集合と写像」4.1 選択公理の主張

この記事では,選択公理と呼ばれる命題の主張について解説する.



直積と選択公理

選択公理は,「直積」について考えると自然に浮かび上がってくる命題である.

集合 \(A,B\) の直積 \(A{}\times{}B\) とは,順序対 \({}(a,b)\) で \(a\in{}A,\ b\in{}B\) なるものの集まりであった.ここで,順序対とは,例えば \({}(a,b)=\{\{a\},\{a,b\}\}\) のように定義されていた.

これをより一般の個数の集合の場合に拡張しようとするとなにがおこるであろうか?

もし,考えている集合が有限個ならば,\(A_1\times\cdots\times{}A_n=(A_1\times\cdots\times{}A_{n-1})\times{}A_n\) として帰納的に定義すればよいであろう.だが,無限個の場合はこれでは定まらない.そこで,以下のようにする.

定義 4.1.1 直積

集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) が与えられたする.この集合族の直積とは,写像

$$f:\Lambda\to\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$$

であって,

$$f(\lambda)\in{}A_{\lambda}$$

なるものの集まりであり,\(\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\) で表す.\(\Lambda\) が \(\mathbb{N}\) や有限集合の場合,\(\displaystyle\prod_{i=1}^{n}\) のようにも書く.

\(A_{\lambda}\)を(\(\lambda\)番目の)直積因子,直積の元を(その集合族の)選択関数という.

 

つまり,\(f(\lambda)\) で \(\lambda\) 番目の座標を表すというわけである.

選択関数の集まりとして定義した直積と,順序対の集まりとして定義した直積の間には,自然な一対一対応が存在する.

定理 4.1.2

有限個の,空でない集合の族 \({}(A_i)_{i=1,\cdots,n}\) が与えられていたとする.このとき,\({}(\cdots(A_1\times{}A_2)\times{}A_3)\times\cdots)\times{}A_n\) と \(\displaystyle\prod_{i=1}^{n}A_i\) の間に全単射が存在する.

証明

写像

$$\varphi:(\cdots(A_1\times{}A_2)\times{}A_3)\times\cdots)\times{}A_n\to\prod_{i=1}^{n}A_i$$

を,

$${}(a_1,a_2,\cdots,a_n)\mapsto{}(f:i\mapsto{}a_i)$$

と定めれば,\(\varphi\) は全単射である.

 

以上からもわかるように,\({}(\cdots(A_1\times{}A_2)\times{}A_3)\times\cdots)\times{}A_n\) と \(\displaystyle\prod_{i=1}^{n}\) は,実質的には,元の書き方が少し違うだけである.無限個の場合も考えるためには,初めに述べた直積の定義が自然であることもわかっていただけたと思う1)なお,写像や関係を定義するときに直積\(A\times{}B\)を用いているので,はじめから直積を写像で定義すればよいというわけにはいかない

さて,直積は実際にはどうなっているのだろうか?

明らかな例として,直積因子に空集合が含まれている場合を挙げよう.

例 4.1.3

集合の族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) が与えられていて,\(\mu\in\Lambda\) について,\(A_{\mu}=\emptyset\) とする.このとき,\(\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}=\emptyset\) である.

実際,ある \(f\) があって \(f\in\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\) なら,\(f(\mu)\in{}A_{\mu}=\emptyset\) となり,矛盾する.

 

また,以下のように,簡単に選択関数を考えることができる例もある.

例 4.1.4

\(\Lambda=\mathbb{R}\) とし,任意の \(\lambda\in\Lambda\) に対して \(A_{\lambda}=\mathbb{R}\) として,集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) を定める.\(f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\) を任意の \(x\in\mathbb{R}\) に対して \(f(x)=0\) として定めれば,\(f\) は集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) の選択関数である.

 

 

ここで,集合の族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) の直積は,すべての直積因子が空でなければ空でないことは(多くの人には)明白に思われることである.このことは,(多くの場合)公理として認められている.これが「選択公理」である.

命題 4.1.5 選択公理I

集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) について,任意の \(\lambda\in\Lambda\) に対して \(A_{\lambda}\not=\emptyset\) なら,\(\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\not=\emptyset\).

 

つまり,集合族があれば,各々の集合からひとつずつ元を「選択」できるというのが選択公理の内容である.

 



 

集合の上の選択関数

さて,ここまでは直積の話であったが,選択公理には,有名な述べ方がもうひとつある.それを紹介しよう.

定義 4.1.6 集合の上の選択関数

空でない集合 \(A\) が与えられていたとする.その上の選択関数とは,写像

$$f:\mathfrak{P}(A)\setminus\emptyset\to{}A$$

であって2)\(\mathfrak{P}(A)\)は\(A\)のべき集合,すなわち,\(A\)の部分集合全体からなる集合である.なお,\(\mathfrak{P}\)はフラクトゥールのPである.

$$f(X)\in{}X$$

なるもののことである.

 

つまり,\(f\) は,各部分集合から元を選ぶものである.

命題 4.1.7 選択公理II

空でない任意の集合に対し,その上の選択関数が少なくとも一つ存在する.

 

端的に言えば,「直積因子からひとつずつ元を選べる」という代わりに,「各部分集合からひとつずつ元を選べる」といっているというわけである.

このふたつの述べ方のどちらを採用しても,同じことである.記号の上では多少込み入った議論になるが,簡単にこのふたつの間を行き来できる.

命題 4.1.8

ふたつ登場した選択公理は,同値な命題である.

証明

「集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) について,任意の \(\lambda\in\Lambda\) に対して \(A_{\lambda}\not=\emptyset\) なら,\(\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\not=\emptyset\)」を仮定しよう.

任意に空でない集合 \(A\) が与えられたとする.集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) を,\(\Lambda=\mathfrak{P}(A)\setminus\{\emptyset\}\) とし \(A_{\lambda}=\lambda\) として定める.

このとき,任意の \(\lambda\in\Lambda\) について \(A_{\lambda}\not=\emptyset\) なので,\(\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\not=\emptyset\) である.そこで,\(f\in\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\) を任意に与えると,この \(f\) は集合 \(A\) 上の選択関数である.これを示そう.

任意に,\(A\) の空でない部分集合を与えたとし,それを \(X\) とおく.このとき,\(X\in\Lambda\) であり,\(A_X=X\) である.したがって,\(X\) は \(f\) の定義域に含まれていて,\(f(X)\in{}A_X=X\) である.したがって,\(f\)  は集合 \(A\) 上の選択関数である.

 

「空でない任意の集合に対し,その上の選択関数が少なくとも一つ存在する」と仮定する.

集合族 \({}(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\) が与えられたとし,任意の \(\lambda\in\Lambda\) について空でないとする.

\(A=\displaystyle\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\) とし,\(f\) を \(A\) 上の選択関数とする.\(g:\Lambda\to\displaystyle\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\) を \(g(\lambda)=f(A_{\lambda})\) で定めれば,\(g(\lambda)=f(A_{\lambda})\in{}A_{\lambda}\) となり,\(g\) は選択関数である.

(証明終)

 



 

選択公理をめぐる色々

さて,ここまで「選択公理」の主張についてつらつらと書いてきたわけであるが,なぜここまで選択公理について詳しく述べるのか?疑問に思う方もいると思う.多少なりともその疑問にこたえたいと思う.

 

数学の公理

現在,数学はZFCと呼ばれる命題群が公理としてもっともメジャーである.その命題群は,\({}(\exists{}x)x=x\) など明らかな(ように感じられる)ものの寄せ集め,である.そこに選択公理も含まれているのだが,選択公理は「自明感」がほかの命題よりも希薄とみなされているようである.

 

選択公理の特殊性(?)

選択公理は,「整列可能定理(空でない任意の集合は整列順序付けることができる)」「バナッハ=タルスキの逆説(球を有限個に分解して組み立てなおせば,2個に増やせる)」といった,一見不可解(とされるよう)な,一見選択公理よりも強く見える(とされる)ような結論を導く.

 

以上のように,「選択公理」はひとつの命題として,たいへん興味深いものとなっているのである.(ちなみにですが,筆者は,自分で証明を書く際にはできるだけ使わないようにしています笑)

 

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参考書籍

この記事の内容を勉強するにあたり,定番で,筆者も使用している本を紹介します.(定価は2020年05月23日時点のものを表記しています.)

 

まずひとつ目は,内田 伏一著「集合と位相」,通称「内田」です.筆者は主にこちらを使用しています.

数学の基礎となっている集合論の内容と位相空間論の内容をまとめた本です3)普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています..なお,筆者が用いているのはこれの旧版で,増補改訂版では,演習問題の解答が拡充されているようです.

 

 

 

ふたつ目は,松坂 和夫著「集合・位相入門」,通称「松坂」です.

内田同様,位相空間まで網羅した内容となっているほか,濃度の演算や順序数の古典的な扱いにふれられています(内田では省略されている).なお,筆者は,こちらの本も旧版を使っています.

 

 

 

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References   [ + ]

1. なお,写像や関係を定義するときに直積\(A\times{}B\)を用いているので,はじめから直積を写像で定義すればよいというわけにはいかない
2. \(\mathfrak{P}(A)\)は\(A\)のべき集合,すなわち,\(A\)の部分集合全体からなる集合である.なお,\(\mathfrak{P}\)はフラクトゥールのPである.
3. 普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています.