「集合と写像」4.2 選択公理に関する例

この記事では,選択公理の主張がどのような場面で用いられるのか,かんたんな例を紹介する.



可算部分集合

はじめの例は,任意の無限集合が可算な部分集合をふくむことの証明である.

定理 4.2.1

\(A\) を無限集合とすると,\(A\) の可算な部分集合が存在する.

証明

任意に無限集合 \(A\) が与えられたとし,\(f\) を \(A\) 上の選択関数とする.任意に \(A\) の元を与え,\(a_0\) とする.重複なく \(a_0,\cdots,a_n\in{}A\) がとれたとき,\(a_{n+1}=f(A\setminus\{a_1,\cdots,a_n\})\) とする.こうすると,\(A\) は無限集合ゆえ \(A\setminus\{a_1,\cdots,a_n\}\) は空でなく,\(a_{n+1}\in{}(A\setminus\{a_1,\cdots,a_n\})\) ゆえ \(a_1,\cdots,a_n,a_{n+1}\) は重複がない.

以上のようにして,帰納的に \(a_0,a_1,\cdots,a_n,\cdots\) を定め,\(X=\{a_n\mid{}n\in\mathbb{N}\}\) とすると,\(X\) は \(A\) の部分集合で,可算である.

(証明終)

 

 

この例において,選択公理は本質的に重要である.例えば,以下のようにして「証明」を書けると思う人もいると思う.

誤った例

任意に無限集合 \(A\) が与えられたとする.重複なく \(a_0,a_1,\cdots,a_n\) が選ばれていれば,\(A\) は無限集合ゆえ \(a_{n+1}\) を \(a_0,\cdots,a_n\) とは異なる \(A\) の元としてとれる.このようにして,帰納的に \(a_0,\cdots,a_n,\cdots\) を定めれば \(\{a_0,\cdots,a_n,\cdots\}\) が \(A\) の可算な部分集合になる.

 

この例はどこがだめかというと,\(a_{n+1}\) を決めるときに不定性が残されていることである.選択公理を用いている方では,\(f\) と \(a_0\) を与えた時点で \(a_n\) が決まっている.

さらに言い方を変えると,誤った例では,任意の負でない整数 \(n\) に対して \(A\) の元 \(a_0,\cdots,a_n\) を重複なく取れることの証明にはなっているが,\(a_0,\cdots,a_n,\cdots\) を重複なくとれることの証明にはなっていないのである.その「行間」を選択公理で埋めている.



全射と単射

全射と単射の関係を選択公理を使って述べることができる.なお,次の定理で選択公理を使っているのは,(い)のみであることを注意しておく.

定理 4.2.2

\(A,B\) は空でないとする.

(い):写像 \(f:A\to{}B\) が全射であれば,ある写像 \(g:B\to{}A\) が存在して \(f\circ{}g=\mathrm{id}_{B}\) となる.

(ろ):写像 \(g:B\to{}A\) が単射であれば,ある写像 \(f:A\to{}B\) が存在して \(f\circ{}g=\mathrm{id}_{B}\) となる.

証明

(い)

\(f\) は全射なので,\(B\) の各元 \(b\) について \(f(a)=b\) なる \(a\) を選べばよい.そこで,選択公理を用いて次のようにする.

\(\{f^{-1}(\{b\})\}_{b\in{}B}(=\{f^{-1}(b)\}_{b\in{}B})\) は,\(f\) が全射であることから,空でない集合の族である.より詳しく言うと,\(A\) の空でない部分集合の族になっている.選択公理から直積 \(\displaystyle\prod_{b\in{}B}f^{-1}(\{b\})\) は空ではないので,その元をひとつ与えることができる.ひとつ与えて \(g\) とする.

このとき,\(g\) は \(B\) から \(A\) への写像になっている.さらに,\(g\) はその定義から,任意の \(b\in{}B\) に対して \(f\circ{}g(b)=b\),すなわち \(f\circ{}g=\mathrm{id}_B\) を満たす.

 

(ろ)

\(B\) の元 \(\beta\) をひとつ,任意に与える.任意の \(a\) に対し,\(f\) を,\(g^{-1}(\{a\})\not=\emptyset\) なるときは \(g^{-1}(\{a\})\) の元を対応させ,\(g^{-1}(\{a\})=\emptyset\) のときは \(\beta\) を対応させるとする.\(g\) は単射なので,\(f(a)\) は各 \(a\) に対して一意に定まっている.このようにすれば,任意の \(b\in{}B\) に対して \(f\circ{}g(b)=b\),すなわち \(f\circ{}g=\mathrm{id}_B\) を満たす.

(証明終)

ここで,\(f\circ{}g\) が単射なら \(g\) は単射であるので,(い)の \(g\) は単射である.全く同様に,\(f\circ{}g\) が全射なら \(f\) は全射であるので,(ろ)の \(f\) は全射である.これらのことから,次がわかる.

 

系 4.2.3

\(A,B\) を空でない集合とするとき,単射 \(f:A\to{}B\) が存在することと全射 \(g:B\to{}A\) が存在することは同値である1)\(A,B\)のうち一方のみが空の場合は同値にならず,両方とも空の場合は同値になる(空写像は全単射である)



射影

選択公理を仮定すると,空でない集合の族の直積は空でない.そこで,任意に与えられた集合の族 \(\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\) について,直積の各元に対してその \(\lambda\) 成分を対応させる写像を考えてみよう2)任意の集合 \(A\) に対して空写像 \(\emptyset\to{}A\) があるので,ここで定義する射影は選択公理がなくても(直積が空でも)考えることができる

定義 4.2.4 射影

集合の族 \(\{A_{\mu}\}_{\mu\in\Lambda}\) が与えられているとする3)わかりやすくするために \(\lambda\in\Lambda\) と書いていないだけで,もちろん \(\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}=\{A_{\mu}\}_{\mu\in\Lambda}\) である.各 \(\lambda\in\Lambda\) に対して \(p_{\lambda}\) を

\[p_{\lambda}:\prod_{\mu\in\Lambda}A_{\mu}\ni{}f\mapsto{}f(\lambda)\in{}A_{\lambda}\]

で定める.\(p_{\lambda}\) を \(\lambda\) 成分への射影(projection)という.射影を表す記号には,\(p_{\lambda}\) のほか \(\pi_{\lambda},\ \mathrm{pro}_{\lambda},\ \mathrm{proj}_{\lambda}\) がよく使われる.

 

直観的に考えて,射影は全射であると思われるであろう.実際,\(\displaystyle\prod_{\mu\in\Lambda}{}A_{\mu\in\Lambda}\not=\emptyset\) であれば射影は全射である.

定理 4.2.5

\(\displaystyle\prod_{\mu\in\Lambda}{}A_{\mu\in\Lambda}\not=\emptyset\) ならば,射影は全射である.

証明

\(\displaystyle\prod_{\mu\in\Lambda}{}A_{\mu\in\Lambda}\not=\emptyset\) の元を任意にひとつ与え,\(f\) とする.任意に \(\lambda\in\Lambda\) を与える.各 \(\alpha\in{}A_{\lambda}\) に対して,
\[f_{\alpha}(\mu)=\begin{cases}
\alpha & \text{\(\mu=\lambda\)}\\
f(\mu) & \text{\(\mu\not=\lambda\)}
\end{cases}\] によって \(f_{\alpha}\) を定めると,\(p_{\lambda}(f_{\alpha})=f_{\alpha}(\lambda)=\alpha\) となる.よって,\(p_{\lambda}\) は全射である.\(\lambda\) の任意性より,任意の射影は全射である.

(証明終)

 

ここで,選択公理より次のことがわかる.

系 4.2.6

任意に与えられた集合の族 \(\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\) について,各 \(\lambda\in\Lambda\) に対して \(A_{\lambda}\not=\emptyset\) が成り立っていれば,射影は全射である.

 

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参考書籍

この記事の内容を勉強するにあたり,定番で,筆者も使用している本を紹介します.(定価は2020年09月16日時点のものを表記しています.)

 

まずひとつ目は,内田 伏一著「集合と位相」,通称「内田」です.筆者は主にこちらを使用しています.

数学の基礎となっている集合論の内容と位相空間論の内容をまとめた本です4)普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています..なお,筆者が用いているのはこれの旧版で,増補改訂版では,演習問題の解答が拡充されているようです.

 

 

 

ふたつ目は,松坂 和夫著「集合・位相入門」,通称「松坂」です.

内田同様,位相空間まで網羅した内容となっているほか,濃度の演算や順序数の古典的な扱いにふれられています(内田では省略されている).なお,筆者は,こちらの本も旧版を使っています.

 

 

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References   [ + ]

1. \(A,B\)のうち一方のみが空の場合は同値にならず,両方とも空の場合は同値になる(空写像は全単射である)
2. 任意の集合 \(A\) に対して空写像 \(\emptyset\to{}A\) があるので,ここで定義する射影は選択公理がなくても(直積が空でも)考えることができる
3. わかりやすくするために \(\lambda\in\Lambda\) と書いていないだけで,もちろん \(\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}=\{A_{\mu}\}_{\mu\in\Lambda}\) である
4. 普通,大学の数学科では「集合と位相」というタイトルで講義が開講されるので,それに合わせた内容になっています.